気仙川

を読んだ。写真家・畠山直哉さんによる、震災前後のドキュメント。


淡々と並ぶ震災前のとても美しい日常の写真の横に、震災直後の著者の生々しい体験が書き綴られていく。
その対比はあまりにかなしく、なかなか故郷に辿りつけない著者の心境を介して、
震災直後にあらゆる人があらゆる有り様で感じた不安感がとても強く示されている。


そしてそのドキュメントが終わった瞬間、紙面いっぱいに広がる瓦礫の街。
また淡々と、先の日常の写真と同じように今度は瓦礫に埋め尽くされてしまった街の写真が並んでいくが、そこにもうテキストはない。
震災直後の言葉にならなかった感情が、言葉にならなかったそのままで溢れてくる。


実際に被災した方々や、親しい人をなくした方々にとっては気分の害されるだろう話で心苦しいけれども、
東京にいたぼくの中でも、
地震の起きた瞬間の恐怖や、テレビの向こうで原発が爆発したときの言いようのない未来への不安といった
これまでに味わったことのない感情があの震災を通してぐるぐると渦巻いたし、
同じようにして日本中の多くの人々が、それぞれの境遇で様々なかたちの恐怖や不安を感じたのではなかろうか。


この本にはあの地震が起きている瞬間は切り取られていない。
しかし震災の現実が、そうした感情のレベルでとても普遍的に記録されている本だと思う。
忘れないために、ぜひ読んでほしい。


気仙川

気仙川