明けまして

早々建築巡らせて頂きます、あいかわらず。
今回の旅はGRAUBUNDEN。スイス第4の言語ロマンシュ語がひそひそと残る、そんなアルプスど真ん中を目指すこの旅。


ZURICHから電車で2時間、まずはGRAUBUNDENの中心CHURに到着。
でかい荷をホテルに預け、そこから徒歩10秒くらいの SCHUTZBAUTEN FUR AUSGRABUNG MIT ROMISCHEN FUNDEN から。
CHURのドン、ピーター・ズントー1986年作。


遺跡のためのシェルターということもあり外観は非常にそっけなくパビリオンチックに建っているという印象。
想像以上に荒々しい肌の木のルーバーと、そのルーバーの壁にくっつけたように出ている黒いボックス状の窓と入り口、そして銀のトップライト。
その入り口がふかしてあるのがにくい。そしてどことなく電車の連結部分みたいだ。ということでさっそく駅で借りた鍵で中に入る。
と、そこは想像より少しばかり明るい空間。そしてとても空気が澄んでいる。
雰囲気としては全然スケールが違えどTATE MODERNのタービンホールにも近いような、そのくらいの工場チックな雰囲気。
その明るさをつくるのはさっき見たトップライトと大きな窓、がメインは間違いなくルーバー。
建物の周りに深く積もった雪の照り返しがルーバーにさらに反射し室内に入り込んできて、なんともいえない神々しい光をつくっているのだ。
暑い地方のものとも、隈さんのとも全く違う、雪が積もるスイスならではのルーバーというものの捉え方。
この、想像以上にルーバーざっくりしてるんだけど、中のつくりも工場の足場みたいなんだけど、だけど光はやけに神々しいっていう感じが、
よくある神々しさからえぐみみたいなものを取り去った本当にピュアな神々しさってものを感じさせてくれて、だからこそ澄み切った空間なんだろうと思う。
いやはやこれがズントー。この旅自体の期待をいきなり高めてくれる。


そしてバスで40分ほどのところにあるFLIMSという街へ。ここはなんといってもオルジアティ親子のお膝元。
もういきなり息子ヴァレリオ作の自身のアトリエ BURO VALERIO OLGIATI と、親父さんであるルドルフ作の実家が目に入る。
かたや真っ黒、かたや真っ白の家形がちょっと仲良すぎんじゃねえのってなカップルみたく並んでいる感じ。
まず息子のほうから吟味すると、間口いっぱいに開けられた大開口からシンメトリーで強いんだけど絶対気持ちいいって感じのプランニングが読み取れる。
丁寧に選ばれたであろう強い斜めの線が空間に広がりをつくっていて、そこに流れ込むような階段がこれまた絶妙。
残念ながら見ることはできなかったが、この建築は1Fのプランニングが必見です。ぜひこれでご確認を。
対して親父さんのほうは住宅ということもあって対照的に非常に閉じている。
窓が少ないのもあるが加えてかなり小さいのだ。玄関戸もぼくでさえ屈まなきゃいけないんじゃないかってくらい小さい。
さらにそれらはほぼグリッド配置。ヒエラルキーがほとんどなし。これだけでもかなり生活が読み取れなくなる。
が、ここで効いてくるのがいくつかの窓がもつ''向き''。
彼が非常に影響を受けたというコルビュジェのロンシャンの開口のような、メガホン状に刳り貫かれたような窓が偏心することでできるその向き。
このわずかな偏心という操作が、単に窓がくぼんでいるってだけじゃない、
それこそメガホンみたいに逆に建築の外側に呼びかけるような奥行きをつくっていて、なんとも不思議な感じを受けるのである。
こちらはa+u掲載(たしかこの号)の内観写真が鬼です。これも必見。


さてそこから数歩、今度は息子の出世作 DAS GELBE HAUS 。
まさにスイスボックスな外観。そしてもとは黄色だったというのが嘘なくらい白い。ほんとに塗ったというより漂白されたみたいな病的な白さ。
が、あの有名な荒々しい外観が抽象的になりすぎるのをうまく抑えていて、なんかその感じがスイスらしく思う。
よく見ればこの外壁、梁の断面みたいな木目までもが白のなかに紛れている。かなりのヤンキー度である。
その白い塊にくっつけられたみたいなコンクリートのエントランスが砲台みたいでいい。
そして中は...と語りたいところなのだがこれが今回の展示ですごいことになっている。
深みのある窓の具合とか、屋根裏の感じをお伝えしたいところですがさすがにこの一見だけでは苦しいす。
パースがきいた階段は良かったす、あとは次回。


その後はひたすらルドルフのほうの作品を探して歩き回る。
が、これがちゃんと場所を調べず来てしまったのに加え、そっくりな住宅がそこかしこにあるのでかなり難しい。
しかし一方で、彼に対する街の愛情を感じるような街がそこに建ち上がっているのを見ているようでとても微笑ましくもある。
白い壁、メガホン状の窓、太いエンタシスの効いた柱、フリーハンドで描いたようなおおらかなアーチ。
彼の建築に必ずと言っていいほど出てくる建築の言語が街の至るところに散りばめられている。
まさに類推的街並。街が言語的に接続しているということが身にしみて分かる。
建築ひとつをつくることが都市をつくるというような文句がぼくの中で初めてリアリティを帯びた瞬間。


そんな体験をしながらのハイライトは、彼の作品に間違いない建物のひとつ CASA LAS CAGLIAS 。
その道程こそまさに、彼がつくったのか弟子がつくったのかオルジアティ言語頻出の住宅が連発で自然と期待が高まる。
そしてその終着としてあるのがこのホテル。
まず目に入るのは角に設けられた、窓と柱という2大言語をミックスしたかのようなエレメント。
彼らしい太すぎる柱が、1Fと2Fを隔てるスラブを境として内部から外部へと顔を出し、そのまま両側からのびてくる窓を受け止める。
ちょうどそこに滞在者であろうご老人が背中を向けてしずかに佇む姿に、
窓辺というものに中心性みたいな意味を生成する柱という言語が付加されることによってできる、空間の焦点のようなものを見ている気になる。
その左手に今度は、崩れた家形にのびるエントランスへの階段が目に入り、微妙に直線でない建築の外形をなぞりながら中へ入れば、
むき出しの配管までも白い小さな部屋、再びまっすぐでないグレーの階段と縄の手すり、彼しか描けない大きなアーチに面したロビーといった、独特の雰囲気をもった空間が連続。
残念ながら無人でそれ以上は深入りできずだったが、そのロビーから垣間見えるなんともいえないラインで描かれた2Fの階段による衝撃的なシメ。
この階段も含め、彼の建築の線という線はほんとうにわずかずつ歪んでいるような感じなのであるが、
それは決して勝手気ままなものに見えるのではなく、何度ものスタディのうえ吟味された1本であるかのような強さを持っていて、
それはなぜならそうして描かれた線の集合としてできた空間が、
ゲーリー建築の空間のように発散へのベクトルを感じるのではなく、むしろその対極にあるたくさんの焦点と収束のベクトルを感じるようなものであるからであると思う。
つまりは、あらゆる制約や諸条件を背負うものとして探し求められ描かれた線1本1本が束ねられたかのような空間。
それは決して踊るような楽しげな線ではなく、それぞれが衝突し、拮抗し合い、ときには決着がつかないまま放置されている。
それは磯崎さんの切断の表現に近いもののようにも思う。いかに設計を止め、またそれを表現するのか。


さて実はまだ終わりではないこの建築。いったん外に出てもう少し奥へと進めば併設されたレストランの様子が伺える。
そのエントランスにはまたも太い柱が4本。
そろそろこの太い柱の正体を明かすと、構造的に要請された太さじゃもちろんなく、なんと大きく刳り貫かれて照明が埋め込まれたり、花を置くスペースとなってるのである。
構造じゃないので端部では縁を切る周到さ。かっこよすい。
その柱の向こうにアーチの大開口があって、暗がりのなか覗けばテーブルがならんだ空間のドンつきには敷地の岩肌を露出させたプール。文句なしのデライトフル。
完全に親父がまだまだ圧勝だろうという充実のFLIMS。


夜はCHURの街をぷらぷらしつつまたもルドルフ建築探し。
街がただ小さいのかそれとも昼間のFLIMSで相当嗅覚がついたのか見事カフェをビンゴ。夜の街で絶叫。
昼間来てお茶をすることを誓い今日はもう寝る。


年明け1発目にふさわしい大物から。ディス イズ ズントー。

中はこのように。パビリオンのように、工場のように、それでも神殿のように。

これがその光を生み出すルーバー。外からも見えちゃうくらいのこのスケスケ度が効いてるということか。

オルジアティ、親子揃って。オフィスをよく見ればスーパーキャンチ。

裏側。銅の庇が渋い。黒の外壁とグッドコンビネーション。

母屋の開口。小さすぎて生活が想像できない。

これはルドルフっぽいけどたぶん違う住宅の窓のディテール。いやはや丁寧すぎるだろう。

息子は親父とは対照的に主張したがる。しかしエントランスがかっこよい。

壁の感じ。もう塗ったったれ状態。

中はこんな感じになってしまってました。残念ながら激しい展示で有名です。

OLGIATI MUSEUMというところも拝見。これが例の柱。何でこんなそっぽを向いてるのかと言えば。

にょーんて口がこうなっておりまして。

こうなるからでやんす。遊び心満載。

このミュージアム、小さいながらも実はかなりいいもの揃い。こんな分厚い窓とか。

絵になる棚、つくったのかそれとも集めたのか。ルドルフは扉や窓を集めては自分の建築に使うそうな。

ホテル外観。彼の建築のなかでもかなりの大規模プロジェクト。

これが柱×窓。その遊び心、言語再生成マシーンのごとく。

中では猫がお出迎え。ざらざらした路地のような質感のロビーへの階段。

そしてこれがロビーから見える2Fの階段。というか上がってしまっておりますが。手すりのライン、階段のライン、床の穴のラインの三重奏。

レストランのプールを外から。アーチ右側の岩肌が中まで続いているのがお分かり頂けますでしょうか。

CHURのカフェ、まさに''3''。さすが世界のナベアツ