建築家はなにも創造しない。ただ

現実を変形するのみ。


こんなナイスな文句を発してしまう天才、シザにほれ始めているLISBON2日目。
krさんの「絶対行ったほうがいいって!」という強いご推薦を受け、予定を変更し今日は近郊のEVORAを目指す。
お目当ては世界遺産であるその街と、そしてなんといっても BAIRRO DA MALAGUEIRA 。シザによる集合住宅のプロジェクト。


バス停を下り来た道を少し戻ると、らしきではあるが一方でらしくもないほどなじんでいるぐちゃぐちゃっとした白い群像が目に入る。
昨日krさんから譲り受けた図面と照らし合わせるもなかなか確証がつかめない。が、そのままどんどん近づく。
と、目に入るのはその真っ白な壁のうえに黄色く縁取られた窓枠、グリーンの玄関戸、そしてリズミカルに立面に走る何本もの白い縦のライン。
シザ確定の瞬間である。
この白いライン、要は各住戸を隔てるための日本でもアパートのベランダについてるような間仕切り壁の端部なのだが、
それが立面とツライチにされることで突然、構えの白い輪郭を構成する重要なエレメントとなり、またこの建築の最大のキモになってしまっている。
すげぇ、早くも期待に胸膨らんでしまう。


その棟沿いを歩き、もういっこ奥の棟とのあいだにつくられた路地空間に入る。
ここがまたものすごい。
入った瞬間から、さっきまでいた茫漠とした荒れ地を忘れてしまうかのような、これぞヒューマンスケールな空間。
何も、ヴェネチアの愛すべき迷路のような入り組んだ感じでもない、ただの1本のまっすぐな道。
その両側に、平屋ほどの高さの白い壁がまずスッとまっすぐのび、先の仕切り壁が煙突のようにひょこひょことのびてその面をリズム分節。
そしてさっきの面と違うのは、今度はその立面に中庭というものが参加し、その長くのびた白い壁をそっと欠き取ってレモンの木の葉っぱをのぞかせる。
そうしてできたシンプルなプランニングに対する小さな揺らぎほどの立体感のなかを一歩一歩進めば今度は、
その中庭を中心に居室を伺わせるようなヴォリュームがもこもこっと建ち上がる立体的な奥行き感に誘われるように中庭とその奥へと目がいき、
カスタマイズされた門や新たな屋根に垣間見える家族像や、洗濯物が現す生活感、また中庭に溢れるものたちが示す各住戸の住み手の個性などに自然に触れてしまう。
1本の通りが、構えの輪郭や、ヴォリューム、それぞれでカスタマイズされてしまった門、その奥に広がる庭、そこに溢れる住み手のものたちなど、
いろんな次元で細分化されていくなかでこそ浮かび上がってくるヒューマンスケール。
それは例えば世界の素晴らしい路地に行けば実は体験できるのだけれども、ここにはそこでは味わえない抽象性みたいなものも同時に存在していて、
ある統一した世界観、つまりは建築家のしずかな統率みたいなものも感じることができるのだ。
その抽象性とはなんなのかと翻って考えてみればやはり、それは先に述べたリズミカルな白い輪郭であり、
それこそこの建築を建築たらしめてる部分なんじゃないかとぐるぐると考えてしまう。
そしてこの抽象性をつくるもうひとつの鍵はディテール、特に雑すぎるほどあっけらかんとした窓。
窓というよりもただの穴なんじゃないかというくらい無造作に開けられたそれは、
黄色い縁取りに代表されるようにカスタマイズされている、というかしてくださいということを示してるかのようなあり方のように見え、
誰かが住むことによって初めて具象化されるような、そんな雰囲気をこの建築全体につくる重要な部分となっている。
当たり前だが白という色も、この世界には必要不可欠だ。


そうした路地が何本か並ぶ最初の群像を抜けると、今度は緩やかなスロープに先のリズムが再び展開する。それだけでどっと複雑になる外観。
もちろんシザ大先生なのでリズムは一定ではなく、その抑揚と傾斜の関係はポリリズムと言っていいんでしょうか。
そのリズムに取り残されたような出れないだろうっていう玄関戸がまたよい。
このスロープ造成が「星田みたいなんだよね!」とkrさん曰く。自分見てないのが惜しいとともに見たい気持ちがふつふつ。
そんな心地よいリズムのなかに今度はグレーの野太い廊が横断。
インフラが集結しているというにはどこか象徴的すぎるこのヴォリュームに対し、「城壁をイメージしたと思うんだよね!」というkrさんの鋭い指摘。確かに。
EVORAの街もこんなふうに城壁に囲まれているのだ。
隠すべきところのようなものを表現にしてしまうところに惚れる。


その後もこんな感じのリズムが反復するも、どこも同じようで同じには思えない不思議な感覚に全く飽きが来ない。
それにしても想像以上に超巨大な集合住宅プロジェクト。
この大きさでこのスケール感覚をキープするのはやはりただ者ではない。
ちなみにすぐ隣にはこの地域ならではな感じのこれまた低層集住群で雰囲気クリソツ。
コンテクストってもののおもしろさがぐつぐつ沸き上がっていいテンション。傑作。


さてカムバックLISBON、次なる目的地は MOSTEIRO DOS JERONIMOS 。リスボン工科大のふたりのおすすめ世界遺産
マヌエル様式というポルトガルならではの表現が体験できる貴重な建築なのだが、かなり美々。富んでます。
大航海時代らしいオーシャンな装飾で彩られた、教会建築(って言っていいんでしょうか)にしては華奢な柱からのびるリブが縦横無尽に走る天井にただただ息をのむ。
この建築を前にすると、ガウディってのは決して奇抜な建築家なわけじゃないんだということが分かる。
これぞスペイン・ポルトガルを支える構造に対する美意識だろうか。
回廊もこれまた必見で、マーブルの空間がリブや細い柱や装飾で細分化されていくさまがほんとに繊細、ゴシックに近くもゴシックにはない優美さ。
2層ロッジアなのだが2層目のほうがトンガリがきつくさらに優美な印象。
太陽の国ならではの強い日差しと豊かで繊細な装飾が奇跡的な影をつくるこの空間は、最高級のロッジアのひとつに違いない。


そんな日も暮れ始めのころ万博会場着。もちろん目当ては PAVILHAO DE PORTUGAL BY シザ先生。
予想通りに薄いが予想以上に小さい。もう少し雄大に思ってたがという印象。
下をくぐればこれまた軽やかだろうという勝手な予想を裏切る、圧迫感とは言わないが上からぐっと抑えられるような感覚。
この抑えの感覚、最初は驚くもなかなか興味深く、シザを理解するうえで効いてくる感覚であったことにのちのち気づくことになる。
それにしてもここは安いドバイかというような開発地区だ。


夜は再び「ちょっとショッピングしてた!」というkrさんと合流し街を徘徊&ディナー。
「カルディラーダって魚のごった煮みたいのせっかくだし食べたいのよね!」というkr発言が空腹の3人の火をつけ見つけたレストランがヒット。
タコにカニにサーモンに、そしてごった煮に、あいかわらず何食ってもうまいポルトガル


ガイドしてくださった上にこんな豪華な食事をおごってくださったkrさん、マジありがとうございます。
ぜひ今度は東京で、3人揃ってポルトガル料理をおごらせていただきます。


SIZA IN EVORA、路地空間。にょきにょきのびる白い壁。

あふれるレモン。

開口まわり。青、白、木陰。

ポリリズム的風景。ここはオリジナルのままなのか白い。

城壁と言わしめた廊。あくまでもなかはインフラ。

スロープの上から見下ろす。無限に広がる街並。ほんとでかい。

町内会議。犬がいい、犬が。

隣に広がる既存街区。屋根以外はほぼ同質。タウンカラーはイエロー。

EVORA城壁内にて。推動して上がる棟の先に煙突。さすが世界遺産

ジェロニモファサード。ここで''モンスーン''に誘われるという甘い思い出。

ジェロニモス内観。名前とともに空間もまた強そうである。

ジェロニモス天井。かっくいー、言うことなし。ライズあさし。

夕焼けロッジア。影がパッキパキでうっとりするくらいの美しさ。

スタバ1号店の雰囲気すら醸し出すジェロニモス近くのスタバ。

リスボン万博ポルトガル館。これぞ抑えの感覚。

ドバイに佇むシザ建築。激薄です。

今度はリスボンの夜景。名物のエレベータより。このへん一帯はシザが計画した街区とのこと。

今晩はまずカニ。ミソがまたうまいんすよ。

そしてごった煮。トマトベースなオサレボーイ。これがまたうまいんすよ。