パキパキのなか

重い荷物を持ち上げ、ついに拠点としていたCHURを離れネクストVRIN。
今現在最もスイスらしい建築家のひとりであるG.A.カミナダの建築が点在する彼の生まれ故郷へ。


昨日のSCHARANS、PASPELSに負けないくらいの小さな小さな村。
この小さな、数えるほどしか住宅もないような村に、10を超える彼の建築が建っている。
バス停の前にある電話ボックスに始まり、もちろん住宅、そしてその改築、はたまた牛舎、さらに公民館まで、
村のすみずみに、決して主張することはなく、しかし確かにそれらは建っている。
来る前に買ったスイス建築マップ的な本がなければ何個か見落としてしまうんじゃないかというくらいのささやかさを持つと同時に、
だがいくつも経験してくといつのまにか違いを見分けられるようになっているかのような構えたち。
間取りを垣間見せるように外壁に独特の凸凹が現れたその構えは、
分厚い壁で空気をサンドイッチしたような、冬が長いこの村ならではの構法を変形させてつくられたものらしいのだが、
そうした次元でコンテクストを汲み取りながら村の粒を更新していくという彼の取り組みは、
まるでもう構法とアーバンデザインって次元の違うものを自然環境を介して同時にデザインしてるように思え、
建築ひとつをつくることが都市をつくることであるということがルドルフとはまた違うやり方で実現されていると言えるんじゃないだろうか。
東京とは比べものにならないほどひとつひとつの粒がかけがえなさすぎるスイスならではの気づきではあるが、
その気づきは東京で粒を更新するときにも通用するくらい力強いものであるはずだ。きっとそういうことだ。


そんな素晴らしき建築と都市の関係を気づかせてくれたVRINをあとにし、次なる目的地はスイスに来る建築ボーイズ&ガールズ巡礼の地VALS。
言わずもがな THERME VALS 。巨匠ズントー最高傑作との呼び声高いスパをいざ体験。


まずは外観。これが思いのほか小さい。
積み重ねられた石のひとつひとつが想像以上に繊細であることがそう思わせるんだろうかと思う。
それくらいに、これまで見てきたズントー建築の(いい)ラフさでは考えられないほどの精度で、
マテリアルを感じるというよりむしろピアノなどに近い(見たことはないですが)エンジニアリングな印象を抱かせるくらいである。
ローマのシェルター然り、ズントー建築はどこかこんなふうにエンジニアリング的で、ときに工業製品のようにさえ見えることがある。
それが誤解を覚悟で言えば無性に素人っぽく見えて、とても原初的な建築にあったように思えるのだ。そのくらい1からつくっているという感じ。
その外観をながめたあとにはがっかりしてしまうほどみすぼらしい既存のホテルのエントランスから中へ入る。


中は勝手にスーパー銭湯を思い描いていたぼくにとってはとても小さなフロント、脱衣所、シャワーから、
水温・効能(?)の異なるお湯につかることのできる、これまた小さな10ほどの部屋たちまでがパラパラと分散してできた大きな余剰の空間に、
大きなプールやリクライニングのためのスペースが設けられた、21世紀美術館のスパ版みたいな構成。
これがとてもメリハリの利いた空間をつくっていて、真ん中のプールなんかはほとんど外で泳いでるみたいな気分を味わうことができる。
対してひとたび小部屋のほうの温泉につかれば、嫌が応にも瞑想にふけってしまうような、洞窟のような空間。
35℃くらいだったか、そのくらいの水温を体験できる縦長の部屋なんかは、他ではきれいに磨かれた石の表面が荒々しいまま残されていて、
それこそ本当に洞窟のような雰囲気で、とても気に入って何度も入りにいく。
あとは久しぶりのサウナもなかなか気持ちよく、VALSの美しい風景を見ながらの大露天プールなんかは言うことなし。
外のようにも洞窟のようにも感じられるとても原初的な空間である一方で、とてもスイスらしいラグジュアリーさがつきまとってもいるのだが、
スキーに行って、温泉につかってと、それを謳歌し健康的にキレイになっているスイスガールを見ていると、そういうのも悪くないと思ってしまう。
加賀の温泉街もこのくらいラグジュアリーに攻めれないものかと、個人的に問題提起。
2時間のスパタイムのシメは水風呂でのナベアツカウント。たった3秒しかやってないのに軽く怒られる。


夜はカミナダの改修による HOTEL ALPINA VALS にて宿泊。
部屋はじゃない感じで少しばかりガッカリするも、少し奮発しホテル内のレストランでカミナダ空間を体験。
恥ずかしながら初めてスイス名物のシュニッツェルを食べるが、これがうちのおかんの極薄トンカツではないか。うます。


その後もスリット状に光を取り込む謎の空隙や段差が利いたホテル内探検、またロビーに置いてあったカミナダ本にて今朝見た建築の復習など、
奮発を取り返す生真面目建築学生のふるまい。
ひさびさのふっかふかのベッドがたまらなく疲れを癒す。


これぞスイス。この山並みが小さなエリアに多様な文化をつくりだす。

まずハーフ&ハーフ。カミナダの姿勢を表明する1作。

多彩な窓を持った立面。

これがいちばん有名れす。矩形平面において屋根が推動しているのは分厚い石の屋根材をを葺くための傾きをつくるためなのではないか、とスガヤと発見。

美しすぎるのでなんとなくアップ。

扉はコの字。

溶け込む方流れ原形。村のいちばん低いところだからこその特別な屋根型。

対して村のなかでは虚をつく家型。同じようで少し違うことの強さ。

謎の取っ手のようなでっぱり。

村の端には堂々とした立面。たくさんの窓の中心としてのテラスがなんとも気持ちよさげ。ここまで全てカミナダです。

その他その1、絶景材木置き場。

その他その2、ヤギ小屋の上向き窓。

その他その3、鳥の羽みたいになってしまっている外装。かこよす。

そしてTHERME VALS。写真だと異様にでかく見えるのはなぜだ。

でかい窓がすきま。小さい窓が小部屋。明快で力強い立面。

壁アップ。石を積んであるのにつるつるやねん。

水着のねーちゃんを撮るわけにもいかないのでスパ内部は残念ながらこれ1枚。あとはこちら

代わりの1枚、スパの下に広がるラグジュアリーなコーナー。どこかデジタルな、白黒のアナログ世界。

ホテルにてカミナダ盛り。皿が、ってことでしょうか。